はじめに
本記事は、これまでNFT市場で大きなシェアを獲得していたNFTマーケットプレイス「OpenSea」と、昨年の10月にローンチされ急激に成長しているNFTマーケットプレイス「Blur」の間で起こっている覇権争いとそれを取り巻くロイヤリティ問題について触れていきます。
そもそもロイヤリティは、二次流通、三次流通…を行う際に、取引額の一部を販売元に還元するフィーのことを指します。よくある勘違いとして、このロイヤリティは、各マーケットプレイスが設けているものであり、大抵の場合、NFTそのものに組み込まれているわけではありません。さらに、NFTとマーケットプレイスが対応している訳ではないので、ユーザーは購入したマーケットプレイスとは別のマーケットプレイスで売ることは可能です。
前提として、OpenSeaとBlurについての基本的な情報に触れておきましょう。
Openseaについて
OpenSeaは、2017年にローンチされた老舗のNFTマーケットプレイスです。NFTというトークン規格が登場してからまもなく登場、長らく利用されており、NFTを知っている方は、一度は耳にしたことがあると思います。
先ほどの通り、OpenSeaは2017年にローンチされており、NFTバブルに差し掛かった2021年8月頃から一気に取引量を増やしました。
2つのマーケットプレイスの違いを視覚的に見るためにUIを見ていきましょう。
OpenSeaでは、各コレクションのメインのインターフェースは、リスト(*1)されているNFTが先に表示され、オファー(*2)が必要なNFTは、その後ろに並ぶようになっています。
*1 :ホルダーが金額を提示しているため、すぐに購入できる状態のNFT
*2:ホルダーに対して購入希望金額を提示して、承諾されないと購入できない状態のNFT
購入したいNFTを選択すると、そのNFTの詳細な情報も出てきます。
いわゆる「マーケットプレイス」という形で、NFTの視認性もよく、売買者の際に主に必要な情報が大きく表示されているので比較的使いやすいように思います。
Blurについて
一方で、2022年10月にローンチされたBlurは、NFTの玄人向けに設計されたマーケットプレイスで、これまでのマーケットプレイスとは少し一線を画したような仕様になっています。
OpenSeaと比較して最近登場したプロジェクトですが、登場からこの数ヶ月のトラクションを見るとOpenSeaよりも多くの取引量が発生しています。この数字の裏には、BlurのAirDrop(*3)が一つの要因であり、継続的にこの勢いが続くは、現時点では不明です。
*3:サービスを早期体験してくれたユーザーに対してインセンティブとしてトークンなどを渡す施策の総称
Blurの各コレクションのメインのインターフェースは、先ほどのOpenseaのインターフェースと比較しても情報が多く、一定のユーザーからは使いにくさもあるかもしれません。さらにリストされているNFTしか表示されません。先ほどの「玄人向けの設計」というのは、特にこの辺りが象徴的で、NFTのトレードをするユーザーをターゲットに使われているため、このようなNFTの画像よりも数字が並び、複数のNFTを同時に購入しやすいUIになっています。
ロイヤリティを争点とするマーケットプレイス戦争(2022年11月)
今回の争点である「ロイヤリティ」ですが、2022年11月ごろにも一度話題になっており、openseaは、ロイヤリティに関するアップデートを行なっています。
当時、Looksrare、X2Y2やSudoswapなどのロイヤリティゼロに設定したマーケットプレイスが台頭し始め、ユーザーがロイヤリティの低いマーケットプレイスに取引量に流出していったことを背景としたアップデートでした。
Top20のコレクションだけ見ても取引量は、手数料の少ないマーケットプレイスに流れていました。
アップデートの概要としては、取引時のロイヤリティを強制するような仕組みで、ロイヤリティを課さないマーケットプレイスでの取引をブロックするというものでした。このアップデートに乗り換えたNFTクリエイターは、継続的なロイヤリティが約束され、ロイヤリティのポリシーに反するマーケットプレイスでは取引ができないようにしたのです。
ロイヤリティそのものは、ユーザーが負担するものなので、多くの利益を得たい売り手がロイヤリティの低いマーケットプレイスに移行するのは、必然な気がしますが、当初から抱えていたOpenSeaのクリエイターに対する思いからロイヤリティの確保は死守したいものでした。
OpenSeaのアップデートに対して、Blurはツイートで反応しており、NFTというブロックチェーン上にオープンで分散化されたアセットからOpenSeaによって支配された中央集権的なアセットになることを危惧しながら、Blurでの取引にもNFTクリエイターに対してロイヤリティの行使を許可したのです。
12月、Blurはロイヤリティを0%から0.5%に引き上げました。
ロイヤリティを争点とするマーケットプレイス戦争(2022年2月)
Blurが「ロイヤリティの行使を約束する」という宣言の裏側で、OpenSeaには予期せぬ出来事が起こっていました。Blurは、OpenSeaが規定したロイヤリティを課す取引において、OpenSeaが作成した分散型プロトコルSeaportを使うことでブロックを回避しました。
Seaportは、誰でもマーケットプレイスを構築することができるプロトコルで、もちろん先のロイヤリティを強制できるNFTは、Seaportで取引可能です。これを利用して、これらNFTの取引については、Seaportを通して行うことで、Blurインターフェース上でも取引が行えるようになりました。この状況は、「OpenSeaがBlurでの取引を禁止する」=「OpenSeaが自らで開発したSeaportを閉じなければならない」ということを意味していました。
OpenSeaは、即座に反応し、大きな方針転換をすることになりました。
Openseaの手数料は、期間限定で0%にする。
オンチェーンで強制されていないロイヤリティを除いて全てのコレクションのロイヤリティは最低0.5%に移行する。
同じポリシーを持つマーケットプレイスはoperator filterによるブロックはしない。
結果的にOpenSeaがユーザーに対してロイヤリティを強制するという流れは断念されました。
止まらないBlurの勢い
ローンチ当初からあったBlurのAirdrop計画は、トランザクションの勢いを止めずに取引量のシェアを着実に拡大させていきました。
この急激な伸びの裏には、フリッパー(*4)やウォッシュトレード(*5)の存在を忘れてはいけませんが、Blurが流動性の低いNFT市場の中では、とても大きな優位性を持っていることは間違いありません。筆者の考えとしては、OpenSeaキラーとして名高いBlurですが、現時点では、想定される対象ユーザーに違いがあるので、このままBlurが一強というのは未だ尚早だと思います。
*4: 投機的にNFTの売り買いを行うユーザー
*5: 特定のウォレット間で取引を行い、実質意味のない取引
まとめ
今回の一件は、OpenSeaがコントラクトベースでロイヤリティを強制力を持たせる形で解決しようとしましたが、Blurに裏をかかれる形で終幕を迎えました。
すでにNFTの領域においてはロイヤリティという概念は定着していますが、実際はOpenSeaをはじめとするマーケットプレイス事業者が慣習的に実装していた仕組みなので、市場原理上、淘汰されてしまうものではあります。
ただ、クリエイターや事業者がNFTに取り組む一つの理由でもあるはずなので、ロイヤリティという仕組みを単なる善意的なアクションというだけでなく合理性を持たせながら実装することで、より良いエコシステムが築けるのではないでしょうか。
著者:Gussan
運営会社:synschismo株式会社
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