NFTのロイヤリティ戦争の終結とこれから
本日の記事は、先日OpenSeaが発表したクリエイターロイヤリティ(以下、ロイヤリティ)の仕様変更に関する話から、これまでのロイヤリティに関するまとめとロイヤリティを取り巻く今後の動きに関して書いていきます。
今後NFTに取り組もうと考えているクリエイターや全ての事業者に読んでいただきたい内容となっておりますので、ぜひ目を通していただければ幸いです。
今回の内容は以下の目次になります。
NFTのロイヤリティとは?
OpenSea、一強の時代
OpenSeaキラー、Blurの台頭
OpenSeaとBlurのロイヤリティ戦争の勃発
ロイヤリティ戦争の終結
実質ロイヤリティ撤廃に対する各所の反応
これからのロイヤリティの形
これまでロイヤリティ戦争の一部は過去のリサーチでも取り扱っておりますが、今回はNFTのロイヤリティ問題に関して網羅的に書いていきます。
NFTのロイヤリティとは?
NFTのロイヤリティとは、NFT作品が二次流通、三次流通…と販売元から離れて流通が発生した際に、取引額の一部が作品の販売元やクリエイターに還元される仕組みのことを言います。ロイヤリティは、クリエイターがNFTに参入する一つのインセンティブとなり、NFTを推し進める一つの理由となっていました。
ロイヤリティはNFTマーケットプレイスの最古参であるOpenSeaが実質的に定めたものであり、クリエイターエコノミーを推し進めるOpenSeaが掲げていた重要な取り組みの一つでした。ロイヤリティは多くのクリエイターを呼び込み、最も多い日で$1.3M近くのロイヤリティを発生させました。(Ethereumのみでの計測)
ロイヤリティを理解する上で重要なのはロイヤリティ自体は、オンチェーンで実装されていないということです(オフチェーンで実装)。オンチェーンとはブロックチェーン上で直接トランザクションを処理し、取引に関する情報をブロックチェーン上に書き込むことを指します。
それらの情報を書き込むには、手数料(いわゆるガス代)を支払う必要があり、ブロックチェーンが書き込まれるてため誰でも参照可能になります。以前このオンチェーンの情報を活用したオンチェーン分析に関するレポートも書いておりますので、ぜひ読んでみてください。
ロイヤリティの話に戻しますが、ロイヤリティ自体はオフチェーンで実装されています。つまり、クリエイターロイヤリティというのは取引されるNFT側に強制力があるわけではなく、OpenSeaで定められたクリエイターロイヤリティの料率はOpenSeaで取引することで獲得できるということです。別のマーケットプレイスで取引すればクリエイターロイヤリティは保証されないということになります。
今回のNFTのロイヤリティに関する一連のまとめは、この強制力を持たせるのが極めて難しい仕組みをめぐるものになります。
OpenSea、一強の時代
OpenSeaは2017年7月からあるNFTの古参にして最大手のNFTマーケットプレイスになります。2021年~2022年のNFTバブル時期には市場のほとんどの取引を独占し、2022年1月に133億ドルのバリュエーションで3億ドルの巨大調達を行いました。彼らが市場をほぼ独占した故にロイヤリティという慣習が定着した側面があります。
さらに、YugaLabのBored Ape Yacht ClubやRTFKTのCloneXをはじめとするBluechip NFTと呼ばれる優良のコレクションの登場もあり、NFTの市場は加熱し、2022年の4月にピークを迎えます。
グラフ内の青がOpenSeaを示す週ごとのNFTの取引総額
しかし、ここから打倒OpenSeaを狙う多くのプロジェクトが登場します。まず、2022年1月ごろにローンチされたLooksRareです。LooksRareは、OpenSeaに加えて取引に対してトークンの報酬を実装し、取引を促しました。さらに、トークンのステーキングを実施しアテンションを集め、ユーザーの取引をさらに活発にしました。また、OpenSeaのユーザーに対してインセンティブ付けを行うことでOpenSeaからユーザーを奪い取るムーブ(ヴァンパイアタック)を起こしたことで話題になりました。
取引に対して報酬を加えたことで売買を一部のウォレットで回した意味のない取引(ウォッシュトレード)が大量に発生します。上記に示した週ごとのNFTの取引総額はウォッシュトレードを省いていますが、ウォッシュトレードを含めるとOpenSeaの取引額を上回っている時期もあります。
2022年2月にローンチされたNFTマーケットプレイスのX2Y2も同様の動きします。X2Y2はLooksRareのような施策に加え、0%ロイヤリティを実験しました。
2022年7月にはNFT AMMのSudoSwapが登場します。これまではNFTのマーケットプレイスであり、ロイヤリティなどに関する取引の一部はオフチェーンで行われていましたが、SudoSwapはNFTの価格が予め設定された需要と供給のバランスによって変化し、全てオンチェーンで行われるためプラットフォームに依存しない分散型の取引所といえます。さらに、SudoSwapは完全にロイヤリティを廃止し、0.5%の取引手数料のみの徴収を発表しました。
SudoSwapは、2 か月で総取引高5000万ドルに到達しました。
筆者の見解であり脱線した内容になりますが、SudoSwapは期待よりも伸びていない印象です。そう感じる理由としてはAMMの特性がNFTとのミスマッチを起こしているところにあるからだと考えています。AMMはもともとERC-20(USDCやWETH)のようなトークンのスワップから生まれたものです。
NFT AMMの場合、NFTを極めてトークンのような扱いを行います。つまり、レアリティを無視した形でプールを形成します。それの対策としてトークンとNFTのサイズをプールサイズを限定することとなります。結果的にAMMの最大の効用であるネットワーク効果は限定的になってしまいます。なので、NFTの性質をうまく汲み取った形でのAMMが実現するとかなり期待値が高いと考えています。
OpenSeaキラー、Blurの台頭
2022年10月にOpenSeaキラーとしてローンチされたBlurの登場です。Blurは暗号資産領域での大手VC Paradigmをリードとして$1100Mの調達を行いました。Blurの最大の特徴はNFTのプロトレーダー向けのマーケットプレイスということで、OpenSeaのようなマーケットプレイスと比較してUIの情報量は非常に多くなっています。さらに、当初はロイヤリティを0%で設定し、Blurのトークンを仄めかすことでユーザーとトラクションを獲得しました。
結果的にローンチから徐々にシェアを伸ばし、トランザクション数の割合、取引額ともにOpenSeaを上回り、新たな地位を確立しました。
OpenSeaとBlurのロイヤリティ戦争の勃発
Blurのロイヤリティの廃止に対してロイヤリティの料率が低いところにユーザーが流れることを危惧したOpenSeaは11月にロイヤリティを強制するコントラクトを発表しました。コントラクトの内容は、いわゆるロイヤリティを執行しないマーケットプレイスをブラックリストの対象として取引が行えないようにするというものでした。
これに対して、BlurはX(当時はTwitter)にて以下のように反応。
OpenSeaのリファレンス実装では、どのアドレスからNFTを移転できるかをOpenSeaが管理する。これが採用されれば、NFTはオープンな分散型資産から、OpenSeaが支配する許可制資産へと移行することになる。これはNFTに大きな中央集権化と規制リスクをもたらす。
~(省略)~
コレクション作成者は、BlurのDefaultOperatorFiltererを使用することもでき、これにより作成者はOpenseaとBlurの両方で使用権を行使し、使用料を得ることができます。
~(省略)~
Blurは、オープンで分散化されたコレクションのロイヤリティにインセンティブを与え続ける。インセンティブ付きロイヤリティの目標は、ゼロロイヤリティのマーケットプレイスからトレーダーをシフトさせ、より多くのロイヤリティでクリエイターをサポートすることである。
Blurは、NFTというブロックチェーン上にオープンで分散化されたアセットからOpenSeaによって支配された中央集権的なアセットになることを危惧しながら、Blurでの取引にもNFTクリエイターに対してロイヤリティの行使を許可したのです。
そして12月、Blurはロイヤリティを0%から0.5%に引き上げる形で落ち着きました。
それから年を跨いで2月、ロイヤリティ戦争に新たな動きが出ます。
Blurは、OpenSeaが発表する分散型プロトコルSeaportを利用して、ブラックリストを回避したのです。Seaportは、2022年の5月にローンチされた誰でもマーケットプレイスを構築することができるプロトコルで、先のロイヤリティを強制できるリストの中にSeaportも含まれています。
Blur内での取引の一部にSeaportを採用することで、「OpenSeaがBlurでの取引を禁止する」=「OpenSeaが自らで開発したSeaportを閉じなければならない」という状況を作り出しました。
そしてBlurの思わぬ反撃に対して、OpenSeaは即座に反応し、大きな方針転換をすることになりました。方針内容は以下の通りです。
Openseaの手数料は、期間限定で0%にする。
オンチェーンで強制されていないロイヤリティを除いて全てのコレクションのロイヤリティは最低0.5%に移行する。
同じポリシーを持つ NFT マーケットプレイス(Blur を含む)を使用した販売を許可するよう、Operator Filiter(ロイヤリティを適用したマーケットプレイスのフィルター機能)を更新する。
OpenSeaはクリエイターロイヤイリティの強制を断念することとなりました。
ロイヤリティ戦争の終結
2023年8月17日にOpenSeaからロイヤリティに関する更なる声明が発表されました。
https://opensea.io/blog/announcements/on-creator-fees/
声明の内容は、同年の8月31日よりロイヤリティをオプション制に変えるというものでした。この内容はOpenSeaのOperator Filiterの廃止、すなわちマーケットプレイスのブロック機能の撤廃を意味しています。(Ethereum以外のNFTコレクションにおいては2024年2月29日まで続行)
OpenSeaのCEO Devin Finzerは、ロイヤリティがなくなったわけではないということを強調しましたが、チップのようなに支払い時に任意に決定するものになるというのは大きな違いになります。
今回、ロイヤリティの廃止の要因として、以下の内容を挙げています。
OpenSeaのOperator Filterはエコシステム全員の賛同が必要だったため
Operator Filterはコレクターの所有に対する期待を阻害する可能性があったため
私たちの役割は、単一のユースケースやビジネス モデルを超えてイノベーションを促進することであるため
1つ目はロイヤリティという存在は、取引者間の経済合理性を考えると0に近づいていくことに起因します。ロイヤリティが0%のマーケットプレイスに取引量が取引量が移っていたことが示しています。
2つ目はNFTがブロックチェーンという分散システムの上に載ることで実現したユーザー主権の技術に対して、OpenSeaのOperator Filiterがその分散化とトレードオフになっていることです。NFTの取引が特定のマーケットプレイスに縛られているという状態はブロックチェーンのエコシステムにおいては不健全な状態と考えられます。
3つ目は彼らの意思表示みたいなものでもあるかと思います。ロイヤリティという収益モデルを超えたイノベーションを促進させることを彼は重要視しているようです。
いずれにせよ、NFTのロイヤリティという仕組みは任意性になったことで、コレクションとしてはこれまで見込めていた二次流通以降のロイヤリティが見込めなくなることとなります。
実質的なロイヤリティ撤廃に対する各所の反応
ロイヤリティという収益源を失ったNFTプロジェクトは各所で反応しています。Bored Ape Yacht ClubやCrptoPunksを運営するYuga Labは、2024年2月までにOpenSeaで新しいNFTを取引する機能をブロックすると発表しました。
多くのNFTプロジェクトは一次販売の価格を抑え、後々高くなっていく中で二次販売で収益を上げていくモデルであり、クリエイターに対する継続的な収益は彼らの生命線であるため、今回のOpenSeaのロイヤリティ廃止に対する抗議運動として、OpenSeaでの取引へのブロックを敢行しています。
同業であるNFTマーケットプレイスのSuperRareのCEO John Crainは「二次販売のロイヤリティはNFTアート革命の基礎であり、アーティストの主権とこの運動の将来の中核だ。業界としてこれを後退させる傾向があるのは残念。」とコメントしました。
多くのクリエイターや事業者からOpenSeaのがOpenSeaのロイヤリティ廃止に対して非難を受けています。
これからのロイヤリティの形
さて、これからのNFT領域においてロイヤリティはどうなっていくのでしょうか?
ロイヤリティの注目株としてERC721-Cがあります。これはNFTプロジェクトDigiDaigakuを運営するLimitBreakが発表したERC721(NFTのトークン規格)の拡張規格になります。
ERC721-Cは、オンチェーンでロイヤリティを強制する仕組みになります。ERC721-Cは、オンチェーンロイヤリティに関する情報を伝達するEIP-2981とは異なり、執行までをオンチェーンで行う仕組みになります。ERC721-Cはロイヤリティの分配やロイヤリティの所有権の譲渡なども行えるようになります、
彼らは取引が行えるコントラクトにホワイトリスト形式を採用することで、ロイヤリティの強制を行なっており、Operator Filterのようなブラックリスト形式とは異なり、取引者のロイヤリティの回避を不可能な形にしています。
一方で、Vtuberやライブ配信における「投げ銭」はある種のロイヤリティ(どちらかというとチップ)に近いかと思います。これは、いわゆる経済合理性を欠いた行動であり、配信者やコンテンツへの愛、敬意によって引き起こされています。
配信者が反応してくれたり、コメントを返してくれるという見返りを求めて投げ銭を行なっていると考えると、投げ銭をすることで何かが動的に変わる仕組みを設けることでロイヤリティを払いたくなるような仕組みが実装できるかもしれません。筆者は能動的にロイヤリティを支払いたくなるような仕組みに可能性を感じています。
まとめ
ロイヤリティは、クリエイターが参入するきっかけとして非常に大きい収益源だったため、今回のOpenSeaの実質的なロイヤリティの廃止は衝撃的な内容でした。
しかし、ロイヤリティという仕組みは、元々OpenSeaのクリエイターに対するリスペクトの気持ちから実装されたものであり、取引者間においては支払いに対する合理性はありませんでした。言ってしまえばあまり持続性のある仕組みではありませんでした。
ERC721-Cのようなトークン規格のようなある種の強制力を持った仕組みがロイヤリティを持続させるかもしれませんし、逆にロイヤリティを能動的に支払いたくなるようなアプリケーションが登場するかもしれません。
ロイヤリティに関する議論は、引き続き注目が必要です。
筆者:Gussan
最後まで読んでいただきありがとうございました。是非ご登録お願いいたします!